當麻寺
たいまでら □奈良県葛城市
多数の国宝を有する、奈良でも屈指の古刹。
二上山の麓に位置する境内は、積み重ねられた時間と信仰心によって生み出された威厳と風格に満ち溢れています。しかし人を寄せ付けないような厳粛なものではありません。境内の雰囲気にはどこか柔和なもの、親密な気配があり、訪れる者にホッとするような安心感を与えてくれます。広い境内には国宝クラスの堂塔が数多く建ち並び、その歴史的なスケールも非常に壮大なお寺です。名高い寺の宝庫である奈良県の中でも、屈指の名刹である當麻寺です。
古都奈良の文化財として世界遺産に登録された東大寺や興福寺や薬師寺であるとか、単体で世界遺産に登録されている法隆寺ほどの知名度はありません。観光客も比べるまでもないほど少ないです。しかし奈良盆地の最南西部にあるこの當麻寺は、歴史ある堂塔、仏像、宝物、どれをとってもそれらの名刹に引けをとらない一級の魅力を抱えています。
最初に出会うのは、日本最古で国宝の梵鐘。
門前町を貫く参道を二上山方面へ、地元で有名な釜飯店を越えたところに石段と仁王門があります。仁王門から境内に入ると、まず正面に小さな鐘楼があります。広場っぽいところにけっこうポツンと佇んでいるし、まあ本堂から一番遠いところだし見学もそこそこに先へ進もうと最初は思いました。しかし小さな立札がその歩みを一瞬で止めてしまいました。そこに書かれているのは「日本最古国宝梵鐘」、なんと奈良時代より前の白鳳時代(飛鳥時代の後半期)に鋳造された、日本で最も古い梵鐘だというのです。當麻寺創建の7世紀には存在していたと言われ、その後に形式化される梵鐘の特徴がまだ見られないそうです。やや高い位置に釣られているため、つぶさにその意匠を見ることは難しいですが、シルエットだけでも普通とは少し違う感じは受け取れました。それにしても国宝の梵鐘だというのに何気なく取り扱っているあたり、當麻寺の底知れぬ実力を感じずにはいられません。
當麻寺の象徴のひとつ、伽藍三堂。
境内を奥に進むと正面に本堂、その手前左側に金堂、右側に講堂があり、伽藍三堂と呼ばれています。本堂は国宝に指定されていて、金堂と講堂も国の重要文化財。本堂で拝観料を納めることで、本堂の内陣と二堂に入ることが出来ます。そしてこれら三堂の素晴らしさは、多くのお寺を見てきた中でも指折りのものがありました。
かつて當麻寺中心だった、国宝弥勒仏坐像を安置する金堂。
まず本堂。幅が広く優美たる外観のお堂で、奈良時代に建築されたものをベースに平安時代に大改築された建物です。内陣に入るには拝観料が必要ですが、絶対に入ってみることをおすすめします。内陣に安置されている本尊は、仏像ではありません。高さ約5mもある巨大な厨子があり、その中に納められている4m四方の曼荼羅を描いた織物が本尊なのです。當麻曼荼羅と言われるもので、国の重要文化財に指定されている大変貴重なもの。ちなみにこの原本となる曼荼羅は非公開の国宝です。そのため本堂は曼荼羅堂とも呼ばれています。また厨子は奈良時代に作られたもので、国宝。さらに厨子が載せられている須弥壇は源頼朝寄進とされ、鎌倉時代のものでこちらも国宝。高欄の造形や装飾が見事で、大変見ごたえがあるものです。また内陣では當麻曼荼羅を挟むようにに東西側にそれぞれ小さな部屋が設けられており、それぞれに仏像や宝物が安置されています。弘法大師空海が修法したという部屋「弘法大師参籠の間」も残されています。
貴重な仏像が並び立つ、壮観な講堂。
次に向かうは金堂。鎌倉時代に再建された建物。北側の入口から入ると本尊の裏側になっていて、回り込んだ反対側が正面となります。これはかつてこの金堂が當麻寺の中心だったことによります。金堂から南へ伸びる道が、元来は當麻寺のメインの参道だったのです。南を向いて安置される金堂の本尊は、国宝の弥勒仏坐像。白鳳時代のもので、粘土による日本最古の塑像です。高さは約2.2m。台座の上にあるため、より高く大きく見えます。滑らかな曲線で構成される弥勒仏は表情も柔和で、1300年以上の時を過ごしてきた達観したものを湛えています。部分的に残る金箔や脱落してしまった螺髪などいくつもの時代を経てきた残痕が、この仏像の真の価値を語るようです。また弥勒仏坐像の周りを固めるのが、四天王立像。4体のうち3体が白鳳時代のもので、日本最古の乾漆像です。その後の時代に見られるような激しい表情で躍動的な四天王像とはやや違って、當麻寺のそれらは穏やかな表情で直立しています。やはりそこにも當麻寺の長い長い歴史を感じます。
まだある日本最古、時が染み込んだ石灯籠。
伽藍三堂の最後のひとつ、講堂。こちらも鎌倉時代再建の建物で、内部には平安時代初期から鎌倉時代に造られた仏像が一挙に祀られています。ひとつの台座に8体の仏像が並ぶ様子はまさに壮観のひとこと。そのうち講堂本尊の阿弥陀如来坐像、珍しい妙幢菩薩立像、もうひとつの阿弥陀如来坐像、地蔵菩薩立像の4体が国の重要文化財。まさかこのように貴重な仏像がひとつの台座にまとめて安置されているなんて、當麻寺の底力というのでしょうか、圧倒的な歴史をひしひしと感じます。
国宝で日本唯一、建ち並ぶ東塔と西塔。
三堂ともに録音されたガイド音声が流れていて、非常に分かりやすく見学が出来ました。それにしても當麻寺の錚々たる文化財の数々。単に名刹という言葉では片付けることのできないほどのものがあります。
しかし當麻寺の素晴らしさはまだまだあるのです。金堂の南側には、これまた日本最古のものがあります。それは国の重要文化財である石灯籠。これも奈良時代より前の白鳳時代のものです。梵鐘と同じように、さりげなく境内に佇む石灯籠。その歴史を証明するように、風雨に晒されたのか角が取れて丸みを帯びたシルエットが印象的です。
半端ないほどに、国宝・重要文化財のオンパレード。
さらに境内の南側に建つのは、東塔と西塔。どちらも三重塔で、東塔は高さ24.2mで奈良時代の建築、西塔は高さ25.2mで平安時代初期の再建。このような時代の東塔と西塔が今も並び立つのは、日本でこの當麻寺だけなのだそうです。そして両塔ともに、国宝に指定されています。
まだあります。東塔の北側にあるのが、中之坊。當麻寺で最も古い僧坊であり、當麻曼荼羅を一晩で織り上げたと言われる中将姫も身を置いたとされる場所です。中将姫は藤原家に生を受けたものの数々の苦難を経て、17歳で出家して當麻寺で尼僧になった人物です。中之坊で修行を積み、最期は生きたまま西方極楽浄土へ向かったとされ、中将姫は當麻寺の象徴として語り継がれました。中之坊では今も中将姫にゆかりのある宝物などを所蔵し、霊宝殿という建物で公開しています。また大和三名園のひとつして有名な庭園「香藕園」があり、すぐ横にある東塔を借景とした美しい情景を楽しめます。園内の丸窓席といい茶室は国の重要文化財というおまけ付き。どこまでも溢れ出てくる、まさに當麻寺は文化財の宝庫です。
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アクセスマップ
詳細情報
名称 | 當麻寺 |
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所在地 | 奈良県葛城市當麻1263 |
問い合わせ先 | 0745-48-2008 | 當麻寺 |
休業日 | - |
料金 | 拝観料:大人500円・小学生250円 |
駐車場 | 有料駐車場 |
公式サイト | https://www.taimadera.org/ |
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/當麻寺 |
食べログ | - |
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