元興寺塔跡
がんごうじとうあと □奈良県奈良市
儚く焼け落ちた、塔跡の礎石や基壇。
古くからの町並みに、最近は古民家を利用したお洒落なショップやカフェが並ぶ、ならまち。そして僕が生まれ育った町でもあります。時代の流れか、観光資源として人気が出るのはいいことですが、その反面子供の頃から体に染み付いてきた町の匂いが薄れていくのもまた事実。人が集まり賑わいを見せる通りは、僕の目からはどこか寂しさを湛えているものです。
そんなならまちの真ん中に、どんなに時代を経ても変わらないものがあります。奈良町資料館から少し南東に歩いた、神社や民家に囲まれた路地の奥。控えめな山門の先に待ち受ける、小さな小さな境内が、元興寺塔跡です。
ならまちの片隅にある元興寺塔跡。山門も探さないと見つけにくいほど、町並みに溶け込んでいる。
山門に掲げられた「元興寺」と書かれた扁額。
境内には美しい花も咲いていた。
町の風景もまた、今とは違っていたはず。
山門には「元興寺」とありますが、ならまちの入口にある世界遺産、元興寺極楽坊とはやや異なる宗派になります。かつて東大寺や興福寺と並んで権勢を誇った元興寺。やがて内部分裂とともに衰退してゆくのですが、その時に分派となったのがここ元興寺塔跡。その後も広大な境内とともに栄えた寺でしたが、江戸も末期の1859年、近隣民家の火災によって焼失してしまいました。今はその基壇部と礎石が残るのみ。生い茂る緑に抱かれて、静かな時を過ごしています。
ここにあったのは、今の興福寺のものを超えるとされる巨大な五重塔でした。推定の高さ約51m、伝承によれば約72mもあったとされる大きな大きな五重塔です。現存していれば、さぞ壮大な姿でならまちに君臨していたのでしょう。生家からも目と鼻の先で、町の風景もまた今とは違っていたはずです。
ここには今の興福寺のものを超えるとされる巨大な五重塔が聳えていた。推定の高さ約51m、伝承によれば約72mとも。
境内のお堂にある地蔵尊。
小さな石仏も多く見られた。
人々の仰ぎを受けていた塔は、もうここにはない。
でも今そこにあるのは、ならまちを散策していてもおよそ気づかない小さな敷地と、知られざる遺跡の風格を漂わせるいくつかの礎石のみ。創建から焼失するまでの約1200年間、人々の仰ぎを受けていた塔はもうここにはありません。
しかし、です。この小さな境内には、美しいものがたくさん詰め込まれています。儚く焼け落ちた塔跡の礎石や基壇はもちろん、厳かな仮堂があり、またそれらを取り囲む豊かな花たち。梅、桜、雪柳、萩。さらに百日紅、牡丹、紫陽花、桔梗…。小さな敷地には、いつ訪れても季節を彩る折々の花が咲いています。
実はこの町を離れるまで、そして離れて時々帰省してもなお、元興寺塔跡というものに気づきませんでした。こんなに近くにあるのに、30年以上も知らなかったのです。遅まきながら、今は帰省の際に時々訪れる散策ポイントになっていますが、山門脇の小さな入口を抜けるたびに新しく発見する季節の移ろいを楽しんでいます。
江戸末期の1859年、近隣民家の火災によって焼失してしまった。今はその基壇部と礎石が残るのみ。
境内には大きな石灯籠といくつかの堂宇もある。
元興寺塔跡の本堂。
この場所を司る、なにかの象徴のように。
ちなみに元興寺塔跡から通り一本西に行くと、元興寺小塔院跡というのがあります。そこはさらに何もなく、本当に草木の生い茂った野路裏という感じ。入口にかろうじて標があるものの、それ以外礎石はおろか、案内板さえありません。観光ガイドに載ることもありません。ただあまり手入れされていない雑木が鬱蒼と生い茂り、あまり日の差し込まない、人の家の庭という感じ。史跡だからといっても観光の時にわざわざ訪れるほどではありません。ただここにいる小さな黒猫がかわいくて。この場所を司るなにかの象徴のように、超自然体で迎えてくれます。村上春樹の小説に出てきそうなシチュエーション。ちょっと不思議な気持ちになります。
観光ガイドに載ることもほとんどないが、ならまちの路地裏的な景観も素敵。ぜひ訪問を薦めたい隠れスポット。
photo.
アクセスマップ
詳細情報
名称 | 元興寺塔跡 |
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所在地 | 奈良県奈良市芝新屋町12 |
問い合わせ先 | 0742-22-5218 | 元興寺極楽坊 |
休業日 | 無休 |
料金 | - |
駐車場 | なし |
公式サイト | - |
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/元興寺#元興寺(塔跡) |
食べログ | - |
トリップアドバイザー | https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g298198-d14927826-Reviews-Gango_ji_Temple_Tower-Nara_Nara_Prefecture_Kinki.html |
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