琴ノ浦温山荘園
ことのうらおんざんそうえん □和歌山県海南市
皇族も愛でた、紀州随一の日本庭園。
色々な観光名所を巡るうちに、昔はさほど興味がなかった日本庭園の魅力に惹かれるようになってきました。土、石、水、緑など自然を慈しみながら、人の手によって庭園美学を追求する。日本建築と自然との調和、ひとつとて同じものがない風景の瞬間、またそこに交わる四季。時には雨や風さえも、景色の一部として取り込む奥深さ。一歩進めばまた違う風景があり、また別の日に訪れると違う風景がある。それを知るにつれ、各地の日本庭園巡りが増えていきそうです。
個人が造った、日本最大規模の庭園。
今回ご紹介するのは、和歌山県海南市にある国の名勝「琴ノ浦温山荘園」。大正時代から昭和初期にかけて造られた庭園で、今の世界的な産業用ベルトメーカーの創業者・新田長次郎氏の別荘でした。広さは18,000坪もあり、個人が造園した日本庭園としては日本最大の規模を誇ります。
彼の雅号であった温山から名付けられ、それは日清日露戦争で活躍した日本海軍元帥・東郷平八郎によるものでした。庭園内の建物には東郷の他にも秋山好古、桂太郎といった名だたる軍人直筆の扁額が飾られており、実業家としての新田氏の成功が伺えます。
海水を引き入れた、珍しい潮入式池泉回遊庭園。
琴ノ浦温山荘園の特徴として大きいのは、海に面して造られたこと。園内の池は海から直接水を引き入れており、潮の干満で水位が変わります。潮入式池泉回遊庭園と呼ばれ、大変珍しい造りです。また海に面した岩山を庭園に取り込んでいて、唯一無二の存在感を醸し出しています。今は海南の沿岸も開発され工場などが建ち並びますが、当時は風光明媚な黒江湾を眼前に、さぞかし優雅な時間を過ごしたことでしょう。
風流の極み、重要文化財の「主屋」。
順路が設定されていて、見どころを順番に巡ってゆきます。温山荘園内には3棟の建物が国の重要文化財に指定されていますが、まず最初に見学できるのが「主屋」。大正4年の建築、庭園では最も大きな建物で、風流な庭園全体を見渡せる大広間が素晴らしいです。ウサギをモチーフにした欄間や先述の扁額は必見。
また敷地内の高低差を利用して建てられているため、正面の玄関からは平屋に見えるのですが、奥では下階があり裏側からは2階建ての建物に見えます。
優美な光景が広がる、東池。
主屋のあとには東池ゾーンに。温山荘園のメインとなる池で、静かで広々とした水面が印象的です。随所に大きな石灯籠が置かれており、豊富な植栽とともに美しい光景を描き出しています。
その東池を横断するように、小島と石橋が石橋が続いています。石橋を渡ったところにあるのが2つめの建物、「茶室」です。茅葺屋根の素朴な外観。こちらは大正9年に建てられたもので、当時としては大きなガラスを用いた縁側のガラス戸が見ごたえあり。中に入ることは出来ませんので、外側からじっくり鑑賞します。
迫力ある岩山に抱かれる、「浜座敷」。
その後は敷地西側にある岩山の途中に建つ「浜座敷」へ。大正2年、温山荘園で最初に建設された建物で、高台になった場所から黒江湾を見下ろす絶好の座敷でした。この建物は敷地外の道路から見えていて、その風流な佇まいも必見です。
また浜座敷のすぐ横に聳り立つ岩山の岸壁も見もの。塩竈神社など和歌浦でよく見られる見事な変成岩で、湾曲部分などもあり迫力満点です。朝まで降っていた雨で、一度岩山に染み込んだ雨水がその岩壁を滴り落ちていました。
紀州青石の銘石が、絶景を描き出す。
まだまだ温山荘園の魅力は続きます。浜座敷の足元に岩山に沿うようにあるのが西池、そしてこの池に架かる、驚くべき2本の石橋が見どころです。ひとつは「長寿橋」という、巨大な一枚岩の橋。和歌浦天満宮や紀州東照宮などで使われている、和歌山でよく見かける青石です。長さは約8.9m、幅は約2.2mもあるそうで、こんなに大きな青石は初めて見ました。そしてもうひとつの石橋は、同じく青石が飛び石のように並ぶ「沢渡石」。表面が滑らかなので滑ってしまわないかハラハラしましたが、風情がある珍しい光景に渡らずにはいられません。
手堀りのトンネルを抜け、秘密の海辺へ。
沢渡石を岩山の方へ渡ると、そこには小さなトンネルがあります。大正4年に岩山を手掘りで貫いたトンネルで、長さは約38m。その先まで行くと岩山の反対側に出ることができ、そこは海に直接面したプライベートビーチ。今は前方には和歌山マリーナシティがありますが、当時は何も遮るもののなく、黒江湾の絶景を独り占めできる場所でした。またトンネルが掘られたのは、岩山で遮られる海風を通すためでもあったそうです。いずれにせよ、温山荘園をより素晴らしいものにする仕掛けであることに間違いはありません。
そして自分の心が、本当に癒やされていく。
時間はすぐに過ぎていきました。どんな一瞬の景色にも心を打つ美しさがあり、それが計算されたものであることにも驚きます。庭園内には松を中心に様々な樹種が植えられ、池、築山、飛び石、灯籠が絶妙な位置に配されています。どれひとつとして同じ風景ではなく、多層的な奥行きを感じます。次々に新しい絶景に出会うような感覚です。それが楽しくて仕方なく、気づけば感嘆の小声を発しながら歩きました。そして自分の心が、本当に癒やされていくのを感じました。そして改めて思います、それが日本庭園の一番の目的なんじゃないかと。
かつて紀州随一の名園として、皇族の来訪も多かったそうです。その栄誉を完全に証明する美しき別世界が、温山荘園にはありました。
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アクセスマップ
詳細情報
名称 | 琴ノ浦温山荘園 |
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所在地 | 和歌山県海南市船尾370 |
問い合わせ先 | 073-482-0201 | 琴ノ浦 温山荘園 |
休業日 | 毎週月曜日,12月1日~2月末日 |
料金 | 大人:400 円、高・中・小学生:200 円 |
駐車場 | 有料駐車場 |
公式サイト | https://www.onzanso.or.jp/ |
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/温山荘園 |
食べログ | ー |
トリップアドバイザー | https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g1023599-d1385179-Reviews-Onzanso_en-Kainan_Wakayama_Prefecture_Kinki.html |
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