いんでいら・えびめし

美しく時間が止まった、極上の昭和洋食店。

岡山市のB級グルメで「えびめし」という、いかにも興味をそそる料理があるようなので、そのルーツに迫るお店を訪ねました。新見市にある「いんでいら」というお店で、いかにも地方の町的なショッピングセンターの1階に店を構えています。屋号のロゴや象のキャラクターなど、見て一瞬で分かる昭和テイストに親近感が湧きます。そしてダクトから店の外に流れ出てくる香りからして、もう美味しいことが分かります。新見市ではかなり有名なお店で、お客さんも観光客というよりかは家族連れや老夫婦など地元の方々がとても多い印象です。

名店「いんでいら」の流れを汲む、最後の一店。

そもそも「えびめし」というのは岡山県民に親しまれているグルメで、洋風か和風かといえば洋風で、ピラフのようにスプーンでいただく料理です。今では岡山のご当地グルメとして知られますが、実は生まれは東京の渋谷だそう。渋谷にあった老舗のカレー店「いんでいら」で考案され、暖簾分けで岡山に店を出したところ瞬く間にヒットして広く食べられるようになったそうです。岡山市の奉還町で「いんでいら」が開業したのは1966年。店舗数が次第に増えましたが、最近では系列店の「えびめしや」が多く、「いんでいら」として営業しているのは2022年現在では新見市の店舗のみになってしまいました。

岡山県民のハートを掴む、えびめしの正体。

えびめしの特徴は、まず見た目の色。見事な黒褐色です。これはえびめし用のソースの色。具にはエビの剥き身とクタクタになるまで炒めたタマネギ、そして一番上に錦糸玉子が乗せられるのが定番です。炒飯のようにご飯と具を炒めてソースで味付けをするのですが、このソースはデミグラスソースをベースにお店によってさまざまなアレンジが加えられています。基本的に洋食の扱いがされているので、ハンバーグやエビフライとセットで出すお店も多いです。岡山では喫茶店や食堂などでも提供され、コンビニでも販売されるくらい市民に浸透しています。

美しすぎるくらい、昭和な感じ。

さて、いんでいらの紹介に戻ります。お店はテーブル席が10卓ほどあり、内装は完全に昭和スタイルの喫茶店です。テーブルと椅子の感じとか、テーブル上にガラス板が敷かれて下にメニューが挟まれているとか、花型の照明器具とか、壁に掛けられた絵画とか。目に入る色んなものと、そして流れている空気感が昭和で心地良いです。そう言えば店先のショーケースなんか、美しすぎるくらい昭和な感じです。接客もとても丁寧で素早く、安心感があります。

コク深い旨味と甘み、そしてカレー風味。

注文したのは一番人気という「えびめし&カニコロセット」と「えびめし&ハンバーグセット」、洋食好きにはたまらない組み合わせになります。お皿にはたっぷりのえびめしとカニクリームコロッケ（ハンバーグ）、ウィンナー、キャベツのコールスロー。いんでいらのえびめしの上にはスクランブルエッグが乗っています。洋食ファンを唸らせる、まさに大人のお子様ランチ。まずは、えびめし。オリジナルソースの摩訶不思議な旨味にびっくりしました。コク深い旨味、明らかに分かる甘味、そしてほんのりと個性を出してくるカレー風味。初めて食べる味なのに今まで好きだった料理を食べているような、ちょっと懐かしくて安心する味です。ハンバーグもカニクリームコロッケも、完全に純然たる洋食店の味です。コールスローがまたサッパリとした絶妙の味付けで、口直しに最適。

追加注文した品も、懐かしさ満喫の逸品。

というわけで店の雰囲気、味ともに人気に違わぬもので素晴らしいお店。あらためて店内を見渡します。40年以上この場所で営業しているそうですが、その時から時間が止まっているかのようです。しかも美しい開業時のままの姿で。すごく感じがよく、居心地がいいのです。だから追加でザ・喫茶店的なメニューを追加注文。プリンアラモードとクリームソーダ。どちらも洋食の図鑑があれば載っていそうな、想像に100%応えてくれるメニューでした。味も全く手抜かりがありません。幸せな気分になってきます。
まだまだ、いんでいらの世界観に浸っていたい気持ちでしたが、旅には行程もあります。たっぷりの満足感を持って、店の外に。夕方の時間帯なので、山間部ではお決まりのようにヒグラシの涼しげな鳴き声が通りに響いていました。

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