香川県庁

独創性に満ちた、巨匠・丹下健三氏の代表作。

その独創性あふれるファサード。そしてピロティや内部まで徹底的に考え抜かれた意匠。巨匠・丹下健三氏により設計され、1958年に竣工した香川県庁。丹下氏の初期の傑作、近代建築の金字塔とも言われ芸術性さえ感じられる建物は、庁舎建築としては日本で初めて国の重要文化財に指定されました。公共建築百選というリストもあるそうで、それにも選ばれています。

木造建築みたいな、鉄筋コンクリート構造。

香川県庁は高松のメインストリート、中央通りから少し西へ入った場所にあります。込み入ったビル群に囲まれて、やや窮屈そうに見えます。でも正面に立った時の、その存在感は絶大です。簡単に言うことも憚られますが、鉄筋コンクリート構造の木造建築みたいな、ある種見たこともないような建築なのです。直線のみで構成された外観は、特に横軸が強調されています。それぞれがバルコニーになっていますが、その軒下にはかなり細かな小梁が無数に並んでいて外観のアクセントになっています。

まさに芸術を見るような、ピロティの意匠。

また正面入口手前のピロティが秀逸。コンクリート打ちっ放しで天井の高さは約7mもあり、開放的な空間になっています。天井は高松産の木材を使ったルーバーで化粧されていて、コンクリートの無機質な感じが一切しません。またピロティの床も高松沖の海底から採取した玉石や小豆島の花崗岩を用いた敷石が使われていて、地産材を活かした建築の先駆けと言っていいかもしれません。そしてこの空間には、モダンな近代建築であるにもかかわらず、とても優しく豊かな表情が醸し出されているのです。さらに何かの象徴のように上階から降りてくる階段、盃のような石のベンチ。それはまさに芸術を見るようです。

巨大な陶板壁画、「和敬清寂」。

建物内部も、凄まじいほどに見ごたえがあります。まず目に入るのは一階中央にある巨大な陶板壁画「和敬清寂」。香川県出身の著名洋画家・猪熊弦一郎による作品です。圧倒的な存在感で空間にそびえ、支配しています。
また建築的にも実はこの壁画に囲まれた内側に、構造体となる柱やエレベーター、共用設備を納めるセンター・コア形式を採用しています。それにより建物の外周には壁がなく、全てガラスを用いて囲んであります。だから一階だというのに全方面から光が入り込み、明るくオープンな雰囲気が保たれています。

60年の時を超えて、今なお語りかけてくる。

そしてこのロビー空間に配置されている家具や調度品が、これまた見ごたえがあるのです。丹下健三氏が主宰していた「丹下研究室」によるデザインのテーブルや椅子、棚など、それらの作品はもはやアートの領域にあるような逸品ばかりなのです。さらに地元で採れた巨大な庵治石を用いた受付カウンターが、空間を一気に香川らしく仕立てています。さらに2階には剣持勇氏デザインの県庁ホールの家具など、どこを見渡しても芸術的な愉しみが味わえるのです。それは私の感性にピッタリくる、心地良いものです。60年の時を超えて、今なお語りかけてくる素晴らしい意匠ばかりなのです。家具類57点も、重要文化財の一部として指定されているそうです。

目指したのは、「開かれた庁舎」。

あまりの衝撃に時間を忘れてしまいそうでした。しばらくロビーで過ごし、1階北側にあるギャラリーコーナーで建物模型や建築に関するパネルを見学しました。ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面を「近代建築の五原則」とした、丹下氏が尊敬した建築家ル・コルビュジエの設計思想を存分に体現した建築であること。またそれにより市民にとって「開かれた庁舎」を目指したこと。その結晶が香川県庁であり、またよく似た建築物である我が故郷の奈良県庁を見れば分かるように、この時代に磨き上げられた感性なのでしょう。私の憧れの時代です。

世界に認められた、珠玉の名建築。

また南側にある築山のある庭園もまた、丹下氏によるものです。さらに2000年にすぐ隣に竣工した現在の本館、地上22階建の建物も同じく丹下氏設計。本当に贅沢な一角です。香川県民が羨ましく思えてしまいます。
とにかく、間違いなく素晴らしい建物です。もはや単なる建物ではない、芸術作品だと思います。何度でも訪ねてみたいと思わせる。世界に認められた名建築、高松を旅する時には必須のスポットです。

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