柳谷観音(楊谷寺)
やなぎだにかんのんようこくじ □京都府長岡京市
新旧の魅力が融合する、京都屈指の古刹。
京都盆地南西部の山並みの中にある楊谷寺は、通称で柳谷観音と呼ばれている古刹。一般的にそれほど有名ではないと思うのですが、訪ねてみると想像をはるかに超えてくる魅力に溢れたお寺なのです。新西国三十三所の第17番にも挙げられる名刹ですが、なにぶんアクセスがしにくいこともあって観光客はさほど多くありません。でも逆にその静けさや落ち着いた雰囲気が諸堂の隅々にまで染み込んだ、とても魅力的な佇まいをしています。堂宇以外にも見どころが多く、今まで訪ねた幾多のお寺の中でも特に印象に残っています。
降り積もった年月が染み込んだ、風格ある本堂。
大阪の高槻方面から車で向かいました。天王山の麓の集落を抜けると、道は急に山を登る狭い道になってきます。すれ違う車は一台もないまま、山上で台地状に開けた場所に柳谷観音がありました。境内は背後に小高い山を背負って、その斜面に広がっています。
山門をくぐるとすぐに本堂があります。江戸時代前期に再建された古いお堂で、降り積もった年月が染み込んで美しい、個人的に大好きな風合いを醸し出しています。本尊は十一面千手千眼観音菩薩。この日は違いましたが、毎月17、18日には開帳されてその姿を拝むことが出来ます。その手前には「びんずるさん」と呼ばれる、撫でられでツルツルになったお釈迦様の弟子の像があります。
書院や庭園、水琴窟を愛でる回廊。
厳かな雰囲気に満たされた本堂で一度靴を脱ぎ、用意してある袋に入れて本堂奥にある回廊に進むことができます。この回廊が柳谷観音の大きな魅力のひとつ。小高い山の上にある奥の院まで階段状に続く木造の渡り廊下で、途中にさまざまなな見どころがあるのです。
本堂から続く建物には書院があり、赤絨毯の敷かれた縁側から見られるのは「浄土苑」と名付けられた庭園。江戸時代中期に作庭されたもので、錦鯉が戯れる池や石灯籠が風流な雰囲気を作り出しています。またその先には「上書院」と呼ばれる建物があり、その横の庭には美しい音色を奏でる水琴窟があります。
坂を降りながら見る、甍を並べる堂宇。
回廊を最上段まで登ると、そこにあるのは奥の院。正面の巨大な提灯が印象的です。子授け・安産の観音様として信仰されているのだそう。奥の院の裏手には、江戸時代の建立とされる奥之院眼力稲荷社、縁結びや夫婦円満にご利益があるとされる愛染堂が建ち並びます。この場所が柳田観音で一番高い場所になるので、あとは坂道を降りていきます。途中には仏塔や石仏が並び、飽きることのない散策路。また上から見下ろす、本堂をはじめとした堂宇が甍を並べる様子もまた風情があります。
下まで降りてくると目立つお堂がふたつあります。柳谷観音に信仰を寄せていた淀殿ゆかりの淀殿弁天堂。その横には淀殿が毎日清めの水として使っていたという湧き水があります。また比較的大きな建物は阿弥陀堂。江戸時代建立の古い建築ですが、高話やコンサートなども催されます。
眼病平癒の観音たる所以、独鈷水。
柳谷観音にはまだまだ見どころがあります。本殿に向かって左側の書院の脇に小さな通路があり、その一番奥にあるのが独鈷水堂。岩場に作られた小さなお堂で、そこには霊泉「独鈷水」が湧き出しています。薄暗い場所で石の桶に水が貯められていて、それを柄杓で掬って手に取り目を洗います。実はこれこそが柳谷観音を昔から特徴づけ、信仰を広く集めてきた大きな理由。独鈷水は創建間もない頃に弘法大師空海の祈祷がなされて霊水となったとされ、目の病気を治す水として言い伝えられてきました。皇室もそのご利益を崇めていたといい、明治維新の頃まで天皇への献上が続いていたそうです。もちろん一般の人々からの信奉も厚く、今でも眼病平癒の観音様として多くの参拝客を迎えています。
講話やコンサートも開かれる、阿弥陀堂。
柳谷観音は平安時代初頭の806年に、清水寺を開創した延鎮によって創建されました。その後空海もたびたび本寺で修行したと言われ、1200年以上に及ぶ歴史の中で多くの天皇や貴族から信仰を集めてきました。庶民からも「眼の観音様」「やなぎださん」と呼び親しまれてきて、境内にはたくさんの灯籠や仏塔が寄進されています。京都の中でもかなり歴史を持つ寺と言えますが、実は最近、柳谷観音は今の時代に合った方法で注目されているお寺でもあります。
先に述べた阿弥陀堂はイベントなどで一般に貸し出されていたり、風流な書院では若い方をターゲットにしたワークショップや写経体験も人気を集めています。そして情報発信にはSNSを積極的に活用してアピールをされています。
SNSで大ブレイクした、艶やかな花手水。
SNSを通して大ブレイクしたのが、柳谷観音の「花手水」です。山門を入ってすぐ左側にある手水鉢に色鮮やかな花々を浮かべて、水面をカラフルに彩ってあります。これがSNSで話題になり、今では若い女性も花手水を目当てに多く参拝するようになったそうです。確かにそれは美しく華やかで、寺という神聖な雰囲気もあって独特の美学が感じられます。季節によって花の種類が様々で、またレイアウトもそのたびに趣向が凝らされ、いつ訪ねてもその時のベストな作品が楽しめます。反響が大きいから、今では境内の数ヶ所で同じような花手水を展示しているそうです。
そして柳谷観音はアジサイでも有名なお寺。先に述べた回廊の左右には、梅雨になれば見事なアジサイが咲き誇り「アジサイ回廊」と呼ばれています。また秋の紅葉でも有名です。
随所に感じられる、おもてなしの精神。
というわけでほんとに魅力いっぱいの柳谷観音。平安時代からつながる歴史に現代に合った新しい感覚がプラスされて、他にはない独自の魅力が生み出されています。また境内でもお寺の方が気さくに話しかけてくださったり、案内板ひとつにとっても丁寧な説明だったり、随所におもてなしの心が感じられるお寺でもあります。
数々の見どころはもちろん、そんな優しさやもてなしの精神を境内の隅々に見つけて散策するのもまた、柳谷観音の魅力のひとつなのです。
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アクセスマップ
詳細情報
名称 | 柳谷観音(楊谷寺) |
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所在地 | 京都府長岡京市浄土谷堂ノ谷2 |
問い合わせ先 | 075-956-0017 | 楊谷寺 |
休業日 | - |
料金 | 一般 500円、高校生以下無料 |
駐車場 | 有料駐車場 |
公式サイト | https://yanagidani.jp/ |
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/楊谷寺 |
食べログ | - |
トリップアドバイザー | https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g1023397-d1386206-Reviews-Yokokuji_Temple-Nagaokakyo_Kyoto_Prefecture_Kinki.html |
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