円成寺

えんじょうじ　□奈良県奈良市

造形美の極致、運慶の処女作に酔いしれる。

完璧な静寂の世界で、初めて大日如来坐像と対峙した時の感覚が忘れられません。伝説の仏師・運慶から800余年の時を超えて、その想いと矜持を受け取る瞬間。一瞬にして震えた心が、この空間の静けさとシンクロするように落ち着いてゆき、やがて体内をも静けさが満たしてゆきます。その時、この相應殿には私以外には誰もいません。色々と心の内で思っていると、なぜか大日如来ともふたりきり、向かい合って会話している気がします。まさに感じたのは、心の静寂。初めての感覚がありました。

想像を、はるかに超えていく魅力。

運慶の最初期の作品として有名な国宝・大日如来坐像が鎮座するのは、奈良市街地から山間部を東へと続く柳生街道、その中ほどの道沿いにある古刹、円成寺です。昔からよく横を車で通っていたのですが、仏像にとても興味が湧くようになってから本像のことを知り、ようやくその門をくぐったのでした。そして円成寺は想像をはるかに超えていく魅力を有し、これだけ多くの寺社がある奈良においても最上級に見ごたえのある名刹なのでした。

名勝の庭園と楼門は、円成寺の象徴。

平日の昼下がり、他に誰もいない、静まり返った境内。早くも傾きかけた冬の太陽が、この聖域を横から照らし出します。堂宇は陰影が際立ち、実際以上に奥行きのある光景として瞼に迫ってきます。楼門の手前に広がるのは、平安時代に作庭されたという庭園です。国の名勝として評価の高いもので、静かな水面に映る木々とその中に佇む楼門は、円成寺の象徴的な風景として有名です。

日本最古の春日造社殿、国宝の春日堂と白山堂。

細い石段を上がり受付を済まし、すぐ右手にあるのが多宝塔。平成に再建されたものですが、2017年に相應殿に移されるまで、大日如来坐像が安置されていた建物です。そしてともに室町時代に建立された重要文化財である楼門と本堂が、直線上にまっすぐ正面に配置されています。本堂は横幅が広く、どっしりとして風格に満ちた阿弥陀堂様式の建築。さらにその右手には、まるで双子のように姿形が似た鎮守春日堂、白山堂（国宝）が並んでいます。これらは鎌倉時代のもので日本最古の春日造の社殿とされます。他にも小さな諸堂がありなにげなく重要文化財だったりして、円成寺のレベルの高さに驚かされます。

運慶渾身の力作、圧巻の大日如来坐像。

そして運慶の大日如来坐像が安置される相應殿。近代的な建物で、専用のギャラリーといった風情です。この頃から仏像に興味が深まり、特に運慶の作品が見たかった私にとっては、円成寺の大日如来坐像はまさに垂涎の一体でした。本像は高さが98.8cmあり、1176年に11ヶ月もの時間を経て完成されました。まさに運慶渾身の力作であり、一説にはデビュー作とも言われます。金箔が所々に残る、漆黒の像。柔和な表情とふくよかな体躯が表現され、細部まで緻密な造形には驚嘆します。目には水晶がはめ込まれていて、見る角度によっては微笑んでいるようにも、眠っているようにも見えます。じっと見つめていると、まさに今動き出しそうなほどに写実的でもあり、肉感や着衣の的確な表現には感服して目が離せません。長い時間、その場を独り占めして心ゆくまで大日如来坐像を目に焼き付けました。

そして常に、完璧なる静寂がある。

最後に本堂に入りました。閉まっていた障子を開けてみると、中心の巨大な厨子、そしてそこには本尊である阿弥陀如来坐像が安置されています。さらに四方を固める4体の四天王立像。いずれも重要文化財に指定された名作であり、放つオーラはとんでもないものがあります。この本堂でもまた、仏像を前にしてしばらく動けなくなってしまいました。そう、私はこの円成寺で、仏像の魅力を知ったのです。
自分で開けた障子の隙間から、斜めに陽光が本堂の中に差し込んできます。通りがかる雲がその光を明滅させるたびに、本堂の中が明るくなったり、暗くなったりします。それは本尊を拝み目をつむっていても感じられる、幻想的な体験です。そして常に、完璧なる静寂があります。本当に厳かで、神妙な午後でした。

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アクセスマップ

詳細情報

名称	円成寺
所在地	奈良県奈良市忍辱山町1273
問い合わせ先	0742-93-0353 ｜円成寺
休業日	-
料金	大人・大学生…500円、高校生・中学生…400円、小学生…100円
駐車場	無料駐車場
公式サイト	http://www.enjyouji.jp/
wikipedia	https://ja.wikipedia.org/wiki/円成寺
食べログ	-
トリップアドバイザー	https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g298198-d3656158-Reviews-Enjyouji_Temple-Nara_Nara_Prefecture_Kinki.html
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