湯ノ口温泉

トロッコで訪ねる、山奥深い秘境の名湯。

紀伊山地の懐深く、豊かな山々の緑に包まれた秘境に湧く湯ノ口温泉。山奥の鄙びた懐かしい雰囲気と、秘湯と呼ぶにふさわしい泉質、そして温泉までのアクセスに鉱山トロッコに乗るという、旅好きにはたまらない個性的な温泉です。数多くの温泉を訪ねましたが、雰囲気といい泉質といい、個人的にはかなり印象に残っている名湯です。
まずはロケーション。湯ノ口温泉は清流・北山川の河畔にあり、一軒のみ営業している小さな温泉です。川の両側はすぐに山になっていて、すっぽりと緑に包まれたような場所。訪ねたのがちょうど夏の昼時だったため、真上から太陽が燦々と降り注ぎ、この小さな谷間はたっぷりの日光によって満たされていました。周りでは360°蝉の声。ぎゅっと絞った夏が湯ノ口温泉にどっしりと腰を下ろしています。

温泉までのアクセスに鉱山トロッコに乗るという、旅好きにはたまらない個性的な温泉。

700年前に開かれたと言われる、古くからの湯治場。

歴史的には700年前に開かれたと言われ、古くから湯治場として親しまれていたようです。でも近くに鉱山が発見され、その掘削の影響で一時は湯が枯れてしまったそうです。昭和後期、やがて鉱山は廃坑となり、再び温泉が湧き出したのだとか。昔のようにまた湯治場としても利用され、素朴な雰囲気を今に伝えています。
湯ノ口温泉には一軒だけ。そこには車でも行けるのですが、とにかくぜひトロッコ列車で。一日に数本しかないので時間を合わせる必要がありますが、乗って損は絶対にしない旅情満点のトロッコです。ひとつ山を越えたところにある入鹿温泉瀞流荘とを結ぶ、レトロでかわいらしいトロッコ列車。もとは鉱山で採れる銅鉱石の運搬に使われていたもので、当時の車体がそのまま使われています。

photo_by_Nekosuki_CC_BY-SA_4.0_from_Wikimedia_Commons

湯ノ口温泉は700年前に開かれたと言われ、古くから湯治場として親しまれていた。写真は建て替え前の建物。

遊園地の乗り物みたいな、懐かしい感覚。

見た目はオモチャみたいで、とても小さな車両。身を屈めて乗り込むと、なんだか遊園地の乗り物に乗ったみたいな懐かしい感覚になります。走り出すとガタガタと振動し、電車でもない、かといっていわゆる観光トロッコのようでもない、鉱山トロッコ独特の揺れと軽快な音がたまりません。片道1kmちょっと、10分ほどの道程。山をひとつ越えるのでほとんどがひんやりとしたトンネルの中ですが、その短い時間をたっぷりと旅気分に染み込ませた頃、トロッコは湯ノ口温泉に到着です。

昭和初期に温泉が枯渇してしまったが、新たに近くで源泉が見つかり現在まで親しまれている。

レトロな浴槽に、約45℃の源泉100％掛け流し。

そこには「湯元山荘湯ノ口温泉」という、昭和を感じさせる佇まいの建物があります。入るといかにも共同浴場的な空間に小さな休憩室がひとつ。ガラガラと音を立てる素朴な引き戸の向こうに、湯ノ口自慢の温泉が待ちかまえています。レトロな雰囲気の浴槽に注がれるのは、加水も加温も循環もない、約45℃の源泉100％掛け流し。無色透明のサラサラとしたお湯で、特に感じるのはすごく新鮮な感じのする点。採れたての瑞々しい野菜のように、お湯自体がピチピチとしています。露天風呂もあり、間近に迫る山々の緑を眺めながら楽しむことができます。今でも湯治に利用されているといい、専用の浴場などもありました。
実は隠れた名温泉が多い紀伊半島南部。その中でも特に深く印象に残る温泉でした。トロッコはぜひ。山奥のさらに隠された秘密の山奥を訪ねる感じと、実力は折紙付きの新鮮な湯。素朴な雰囲気も素晴らしく、これからも変に観光地化されずにこのままの姿であり続けて欲しい名湯です。

加水も加温も循環もない、約45℃の源泉100％掛け流し。今でも湯治に利用されている。

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