伽耶院
がやいん □兵庫県三木市
古色蒼然の境内を満たす、無二の世界観。
一面の稲穂が頭を垂れ、傍らに咲く彼岸花。昨日の雨が急に連れてきた寒さが季節の変わり目を実感させてくれた、とある初秋の夕方。10月に入って衣替えした黄色の田園風景には、黄金色の西日が差していました。秋色のフィルターが二重にかかったような里山の風景の中を、伽耶院に向けて車を走らせます。伽耶院は兵庫県三木市の静かな山間、東西に細長く伸びる谷にあります。まるでその谷間に注ぐように真西から太陽が差し込み、夕日の粒子が伽耶院の谷を満たしていくかのようです。
夕日に照らされた、仁王門と表門。
そんな秋のど真ん中を車で走っていたら、とある集落のはずれに唐突に現れた仁王門。西日を浴びたその古びた門は、この先に待ち受ける伽耶院の素晴らしき世界を暗示しています。仁王門を回り込むように道路は先へ続いていて、あと少し進んだところに駐車場があります。そしてそのあたりに、伽耶院の境内への正門である表門があります。表門に向かって少しの石段があり、比較的最近になって新調されたような小綺麗な石垣と漆喰塗りの塀で整備されています。そして仁王門と同じように西日を正面から浴びて、際立って明るく映えています。ところがこの表門をくぐると、一転して鬱蒼とした森と湿潤な空気に包まれた、伽耶院の古色蒼然とした世界に切り替わります。
伽耶院を、特別な世界にしているもの。
そこに広がっているのは、今までに見たこともないような独特の世界でした。あらゆるものに幾重にも積み重なった時間の膜がかかっていて、それらを一枚一枚めくっていくとその度に伽耶院の記憶を発見するような、それはうまく言い表せない種類の世界観です。簡単に言うと不思議な雰囲気に満ちているというか、ただただ古い堂宇が建ち並ぶだけではない、それらと人々の信仰心や営みも渾然として成り立ったことが感じられる独特の世界なのです。金堂や多宝塔などの主要な堂塔は、当然のことながらその長い歴史を包含した素晴らしい建築物です。しかしながら伽耶院を特別な世界にしているものが、この境内にはあちらこちらに存在しているのです。
木漏れ日が、お地蔵さまを優しく照らす。
まず最初に迎えてくれるのは、金堂に向かう砂利の坂道にある小さな石像たちです。高さはせいぜい30cmくらいでしょうか、全部で20体ほどの可愛らしいお地蔵さまで、お揃いの真っ赤な帽子とよだれかけを召されています。間近で見るとどれも豊かな表情をしていて、中にはとてもコミカルに見えるお地蔵さまもいらっしゃいます。頭上に生い茂る木々が太陽を遮っていますが、それでも差し込んでくる木漏れ日がお地蔵さまたちを優しく照らしています。
台の上に並ぶ、小さな小さな招き猫。
また金堂の前には小さな小さな招き猫が無数に並べられた台があります。招き猫は伽耶院のおみくじで、金堂の中で買えるもの。おみくじを読んだあとの招き猫を、こうやって並べて帰る慣習なのです。時間が経っているものもあり、招き猫の上を這うように蔦が伸びている台もありました。
入山料は、「草ひき十本」。
もうひとつ、気になったのがあります。それは金堂の前にある、一見ベンチのようなもの。そこには大量の草が積み上げられています。はじめそれは掃除で出た雑草が無造作に置かれているのかと思いましたが、全く違いました。少し離れたところに立て札があり、そこには「入山料お一人につき草ひき十本」と書かれています。つまり入山料はお金ではなく、境内に生えている雑草を10本引くこと。積み上げられているのは、参拝者が引いた草だったのです。もちろん私も付近の草を引き、その草の山に重ねました。こんなひとつひとつのことの積み重ねが、伽耶院の独特の世界を創り上げているような気がしてきます。
金堂内部を満たす、完璧な静寂。
このあたりで一度、伽耶院の堂塔の紹介をしたいと思います。伽耶院の本堂は金堂と呼ばれていて、寺伝では1610年の再建とされています。内陣と外陣を格子戸で分節した密教寺院建築で、本尊は平安時代の作と言われる毘沙門天(国の重要文化財)。入口にある鮮やかな色を使った欄間が印象的です。中に入ると、先ほどまでの境内の静けさがより一層深みを増し、ほぼ無音の静寂に包まれます。音がなくなり、何か優しいものに包まれたような安心感。この時伽耶院には他に誰もおらず、この完璧な静寂は私だけのものでした。なんという贅沢。
神秘的な雰囲気を醸し出す、多宝塔。
金堂の奥には、こちらも古びた外観が美しい多宝塔。1647年に再建されたもので、ところどころに施された彩色が印象的です。均整のとれたシルエットが特徴的。高く聳える森を背景にして、まるで時が止まってしまったかのような神秘的な雰囲気を醸し出しています。多宝塔にも森を通り抜けてきた木漏れ日が差し込んきて、明るく照らされた部分の凹凸が際立つ様子、またその前でゆらゆらと揺れる青モミジが色を添える情景は息を呑むほどに美しいものでした。
三坂明神社は、神々しい存在感を放つ。
その多宝塔と金堂に挟まれて鎮座するのは、鎮守社である三坂明神社。金堂と時を同じくして再建されたもので、築400年以上を数える建物です。三間社流造と言われる形式で、その不思議な雰囲気を含めて、神々しい存在感を放っています。そしてこれら並び建つ金堂、多宝塔、三坂明神社はすべて国の重要文化財に指定されていて、伽耶院の中枢を成す堂塔となっています。他にも同時期に建立された開山堂、行者堂、二天堂(中門)といったお堂があり、伽耶院の世界を創り出しています。
積み重ねた石臼に鎮座する、臼稲神社。
まだ他にもあります。多宝塔の奥にひっそりと佇む臼稲神社。これは小さな祠がひとつあるだけのものですが、特徴的なのはその台座が奉納された石臼を積み重ねて作られていることです。また境内の西側には水子地蔵石仏群があります。山裾にあたり昼でも薄暗い場所に、無数の水子地蔵が並びます。お供えの風車や人形も無数にあり独特の景観になっていますが、無造作にされている感じもあり、少し怖さを感じる雰囲気さえあります。まさに賽の河原といった光景で写真に撮るのも憚られるものがあり、結局1枚も撮らずにその場を離れました。
古びた堂宇や石像が創り出す、唯一無二の世界。
伽耶院は645年に法道仙人が開基したと言われます。平安時代にはかなり隆盛した大寺院だったようですが、後の兵火や火災により一度は灰燼に帰したといいます。現在の堂塔が1600年代に再建され今に至ります。修験道の寺院として、秋には各地から山伏が集まる採燈大護摩でも有名です。また豊かな森では初夏のアジサイ、秋の紅葉でも知られています。
ということであらゆる魅力に溢れていた伽耶院。豊かな自然に抱かれ、古びた堂宇と不思議な石像や習わしが創り出す、唯一無二の世界がありました。
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アクセスマップ
詳細情報
名称 | 伽耶院 |
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所在地 | 兵庫県三木市志染町大谷410 |
問い合わせ先 | 0794-87-3906 | 伽耶院 |
休業日 | - |
料金 | 入山料:草ひき10本 |
駐車場 | 無料駐車場 |
公式サイト | https://www.gayain.or.jp/ |
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/伽耶院 |
食べログ | - |
トリップアドバイザー | https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g1022827-d8150345-Reviews-Gayain_Temple-Miki_Hyogo_Prefecture_Kinki.html |
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