天保山

日本一あらため、二番目に低い山。

海遊館や大観覧車、マーケットプレイスなどの人気スポットが集まる天保山エリア。その名前の由来となっているのが標高4.53mの山、天保山です。山と呼べそうにもないほど低い山ですが、国土地理院の地形図にはれっきとした山として掲載されており、山頂とされる場所にはちゃんと二等三角点もあります。ただ、低くても築山のようにこんもりとしてくれていたらまだ山と分かりやすいのですが、実際に山頂とされる地点は平坦な公園の片隅です。なんなら公園の地面レベルよりも少し低いところにあり、色んな意味で見ごたえのある「山」なのです。

歌川広重も浮世絵に描いた、風流の地。

天保山は大阪港の近く、大阪市中から大阪湾へ注ぐ安治川の河口付近にあります。江戸時代（天保年間）に大規模な浚渫工事が行われた時に、川底から浚った土を積み上げて造られた築山でした。当初は高さが約20mほどあったと言われますから、相当巨大な人工物でもありました。その話題性と存在感から江戸期には大坂でも人気の行楽地であったようで、松や桜が植林され、高灯籠や茶店、舟遊びといったように、歌川広重も浮世絵に描き起こすほどの賑わいを見せていたといいます。

天保山の標高は、わずか4.53m。

しかし当初は標高約20mあったのに、近くに砲台を作るための土砂として使われたり、また地盤沈下の影響から現在の天保山の標高は4.53m。つい最近まで「日本一低い山」として有名でした。2014年からは東日本大震災による地盤沈下で標高3mになった、宮城県にある日和山が日本一低い山となっています。つまり天保山は日本で2番目に低い山。そんな天保山の周囲は緑豊かな公園として整備されています。

「明治天皇観艦之所碑」の横が、天保山山頂。

公園の入口には高潮に備えた大きな可動式の防潮堤があり、そんなものに守られる山というのも変な感じがします。公園内には小高い丘があり、展望台になっています。最初はこの小高い丘が天保山だと勘違いしてしまい、登ったあと帰路につきかけました。でも何の表示板も無かったので、さすがにおかしいだろうとスマホで調べながら公園に戻ります。するとやはり展望台は天保山ではなくて、公園の一番奥に山頂があることが分かります。そこには明治元年、明治天皇が天保山で日本初の観艦式を行ったことを記念する碑「明治天皇観艦之所碑」が建てられています。かなりの高さがあり立派で、これはこれで見ごたえのあるものです。

目立たない、ひっそりと存在する山。

でも天保山山頂はこのあたりにあるはずなのですが、パッと見はそのような盛り上がった山らしきものが見当たりません。せめて丘程度でもいいのですが、それさえないのです。そしてよく探してみると、それは今自分がいる場所よりも低い位置にありました。というかまさに足元が山頂だったのです。地面に埋め込まれように二等三角点があります。その横、植え込みになった一段低いところに、小さな案内板がありました。想像していたより10倍目立たない、ひっそりと存在する山です。ちょっと拍子抜けしてしまいます。まさか山の形さえなく平坦、砂場で子供が作った砂山程度のものさえなかったのです。しかしそれはそれで珍しいというか、意表を突く結末で面白いです。時代が流れて色々と周りが盛り土される中、天保山山頂は我慢強く山頂の高さを変えなかったのですから。

巨大な橋と、巨大な観覧車に挟まれて。

公園の周りをあらためて見回してみると、北側には高さ152mの天保山大橋、南側には高さ112mの天保山大観覧車があります。どちらも空を相手に高さを競い合うように屹立しています。そんな環境でも、天保山はマイペース、高さ論争は気にもしていないようです。だから天保山公園にはゆるやかな時間が流れています。天保山の西側の「麓」には、小さな渡船場があります。天保山よりも低いのは、どうやらこの渡船場だけのようでした。

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