海岸通り・栄町通り

本来の街の姿から、新しい価値観を発信する。

神戸の街で新しいトレンドの発信地として、近年注目を浴びているのが海岸通りと栄町通り界隈。新しいショップやカフェが次々と出展し、古い雑居ビルが立ち並ぶ一帯は賑わいを見せています。
1ブロックを挟んで東西に平行して伸びる二つの通りは、かつて神戸の街の成長を支えた屋台骨のようなエリアでした。北側に位置する栄町通りは、明治時代から昭和前期まで金融街として華々しい発展を遂げた通りでした。財閥系の銀行や商社などの重厚な近代建築が立ち並び、東洋のウォール街とも呼ばれるほどに影響力を持った街でした。

優美な装飾と、気品ある石造りの洋館が並んだ時代。

一方、道が作られた時には海に面していたことからそう呼ばれた海岸通りには、神戸の主幹産業でもあった海運会社や造船会社が集積し、栄町通りと合わせた一帯はまさに商業の中心として発展。優美な装飾と気品ある石造りの洋館が並びました。それらのうちいくつかは今も残り、阪神間モダニズムを我々に語り伝えてくれます。
しかしやがて神戸の経済の中心は東の三宮エリアへ移り、このあたりの全盛は徐々に勢いを失ってゆきます。1995年阪神淡路大震災では、古い建物が多いためビルの破損や倒壊も相次ぎ、大きく衰退してしまった栄町通りと海岸通り。震災後の再開発も他エリアに遅れ、一時は時代に取り残されたような寂しい街並みになったこともありました。

苦難の時代が、今のこの街の財産となっている。

でも、そういった苦難の時代があったからこそ、今の街にはこのあたり独特の雰囲気が漂います。根っこから新しく変わり、大きく無機質なコンクリートの塊が増えてゆく三宮とは対照的に、どこか混然となった温かさとか憂いとか、そしていい意味での人間臭さがこのエリアには生き残りました。それに惹かれたたくさんの人々が、2000年代以降に個性的なカフェやオーナーショップをこの地に開き、今や様々な感性と情報が生み出される文化の発信地となったのです。
そんな中、古くから残るこの辺りを代表する人気ビルをふたつほど。ひとつは栄町ビルヂング。ゆるいレトロというか、重厚な造りではなく、昔からずっとある雑居ビルのような感じ。ベル式の電話の音やタイプライターを打つ音が聞こえてきそうな世界。小振りな窓から差し込む光が館内を淡く照らします。細い廊下に並ぶ小さな木製の扉、その向こうにはそれぞれのお店の世界が待ち受けています。ひとつひとつのお店が個性的なパズルのピースのように集まって、ショッピングに楽しい空間を作っています。

シンボル的な存在のひとつ、海岸ビルヂング。

もうひとつ、この界隈ではシンボル的な存在なのが海岸ビルヂング。国の登録有形文化財にもなっている歴史的に価値のある建物で、明治44年に商社のビルとして建てられたもの。館内の中央にある大きな階段を上ると、どのフロアにも個性的なショップが揃います。他にもこの界隈には雑貨屋や古着屋など、それぞれのショップで店主のこだわりを感じられる品々があふれています。
いつかこの街も、また抗えない時代の渦に巻き込まれることがあるのかもしれません。街は移ろい変わってゆく生き物のようなもの。でも今この街で大切にされているものは、街にとっても人にとっても神戸の財産であり、これからもそれが失われないでほしいと願っています。

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